つくることを、やめない。: SP.LINKS・阿部将人が体現する、進化し続けるリーダーシップ


🇯🇵 Japanese | 🇺🇸 English

小学生だった阿部将人にとって、コンピュータは贅沢品だった。お小遣いを貯め、新聞配達で稼ぎ、ようやく手に入れた一台。少年はそこで覚えたプログラミングで自作のゲームをつくり、友達に遊んでもらった。プログラミング雑誌に自分の作品を投稿することもあった。世界がまだインターネットを知らない時代に、彼はすでに「自分の手で何かを生み出す」喜びを知っていた。

それから数十年。阿部はいま、日本の決済インフラを支えるSP.LINKS株式会社(旧ソニーペイメントサービス)で、CTO and CIOを務めている。役割も、扱う規模も、あの頃とは比べものにならない。だが、その根にあるものは変わっていない。つくる喜び。そして、つくり続けることへの執着である。

「常に満足するな、慢心するな」。阿部が長く自らに課してきた言葉だ。技術も社会も、止まらずに動いていく。ならばリーダーもまた、止まってはいけない。彼のキャリアは、その信念をそのまま体現してきた軌跡でもある。

事業の真ん中で、技術を動かす

阿部のキャリアは、運送会社のシステム担当として始まった。やがて、より大きなシステムやデータベースに触れたいという思いが募り、日本最大級のデータベース企業へと移る。だが、彼の関心は技術そのものにとどまらなかった。受託でシステムをつくるSIerの立場ではなく、技術で事業そのものを伸ばす側に立ちたい。その思いが、次の一歩を決めた。

転じたグルーポン・ジャパンで、阿部は多くを得た。当時としては世界に先駆けてビッグデータを実装し、売上の拡大に貢献する。その働きはRSU(譲渡制限付株式)による評価につながり、CTO and CIOとして経営の中枢を担うことになった。

次に身を投じたのは、店舗の順番待ちシステムで日本の先駆者となったEPARKグルメだった。ここでの最大の挑戦は、技術そのものよりも「組織をつくること」だったと阿部は振り返る。ほぼゼロの状態から、百人規模の技術組織を築き上げた。政府関連のプロジェクトでも大きな成果を残し、連日テレビで取り上げられるサービスを世に送り出した。

欧州や米国から声がかかることもあった。それでも阿部が選んだのは、まったく新しい挑戦だった。Blackstoneの紹介を受け、決済の世界、SP.LINKSへと進む。「この会社でなら、自分の経験を生かして成長を後押しでき、ひいては社会に貢献できる」。そう確信したからだ。

個人の成果から、人を動かす力へ

キャリアの最大の転換点はどこか。そう問われたとき、阿部が挙げるのはグルーポン・ジャパンでマネジメントへ移ったときだ。それまでの仕事は、技術的な課題を解き、自らの手で成果を出す、個人の貢献が中心だった。

責任者になることは、その前提を根本から覆した。成果だけでなく、人を、チームの文化を、組織の成長を預かる立場になったのである。「リーダーの仕事は、自分の成果を最大化することではない。チーム全体が最も力を発揮できる環境をつくることだと気づきました」と阿部は語る。

その移行は、決して楽ではなかった。人を育て、機会を与え、必要なときに助言し、共通の目標へと束ねていく。個人で結果を出すこととは、まるで異なる技術が求められた。試行錯誤を重ねながら、阿部は自らのリーダーシップを少しずつ磨いていく。個人として走る人間から、組織を動かす人間へ。あの経験が、彼を作り変えた。

「自分がやる」と決めた瞬間に、人は変わる

SP.LINKSで成し遂げた最も大きな変革は何か。阿部は迷わず「人々の意識改革」と答える。彼が加わった当初、多くの従業員は決められた作業をこなすことに専念し、自分の仕事が誰にどんな影響を与えるのかまで考える機会を持っていなかった。

阿部はまず、その問いを投げかけた。あなたの仕事には、どんな意味があるのか。それは最終的に誰の役に立つのか。同時に、これまで外部のベンダーに任せきりだった領域を、少しずつ社内へと引き戻していった。

「人は、自分がやると決めた瞬間に真剣になります」。その責任も、対応も、自分でしなければならないからだ。仕事の意義を理解し、誇りを持つこと。阿部はそれを変革の起点に据えた。さらに、新しい取り組みは人を夢中にさせる。改善と挑戦のバランスを取りながら、組織に活力を吹き込んでいった。

この変革を通じて、阿部はあらためて確信した。リーダーの役割は、仕組みや技術を整えることだけではない。人が自分の仕事に誇りを持ち、自ら動き出す、その瞬間をつくることなのだ。「一人ひとりの意識が変わっていく様子を間近で見られたことは、リーダーとして最もやりがいを感じた経験のひとつです」。

攻めと守りの基準を、言葉にする

変化の速い業界では、新しい技術を片端から取り入れればよいわけではない。阿部の考えは明快だ。影響を抑えたい場面では、実績のある安定した製品やバージョンを選ぶ。一方で、話題のAI製品の導入や、ガートナーが提唱するようなセキュアな環境の構築には、積極的に踏み込む。

その両立を支えるのが、新たな取り組みには必ず検証の仕組みを設けるという原則だ。「大胆に攻めながらも、慎重さを失わない。そのために、攻めと守りの基準を明文化しています」と阿部は言う。基準が言葉になっていれば、判断は属人的な勘から離れ、組織の意思決定として機能する。

技術戦略と情報戦略。その両輪を預かるCIOとして、阿部が守ろうとしているのは、変革を進める大胆さと、組織の信頼を守る慎重さの均衡である。

メンターを持たなかった人間の、メンター論

意外なことに、阿部自身にはメンターと呼べる存在がいなかった。だからこそ、自分の頭で考え、答えを探し続ける習慣が身についた。成功も失敗も、すべてが学びになった。それが、いまのリーダーシップの原点になっている。

だが阿部は、その生き方を誰にでも勧めるわけではない。「自走だけで生きられるのは、ごく一部の人間です。それでは組織は成り立ちません」。だからこそ彼は、適切なメンターを配し、多様な経験を与え、ときに甘やかさずに仕事を任せる。問題が大きくなる前に手を差し伸べ、本人の成長を促す。

次世代の育て方にも、同じ哲学が貫かれている。どんな課題でも、まず本人に考えさせる。そのうえでレビューを行い、ユーザビリティの視点が足りなければ指摘し、方向性がずれていればその理由を丁寧に説明する。単なる修正で終わらせず、自ら気づき、成長する機会へと変えていく。

阿部にとって、メンターシップは一方通行ではない。人に仕事を任せ、支えることは、メンターの側にとっても成長の機会になる。互いに役割の重みを理解し、ともに育っていく。その相互作用こそが、強い組織をつくる。政府プロジェクトで大きな成果を残したときも、力の源泉はそこにあった。指示だけのリーダーでも、細部まで管理するリーダーでもいけない。「できる人がやったほうが早い、ではないのです。協力して大きな力を生み出すことに、意味があります」。

旅が運ぶ、心のリセット

仕事に向かうとき、阿部は際限なく没頭する。それは彼にとって、何より楽しい時間だ。家にいてさえ、気づけば仕事のことを考えている。それでも、心をリセットする時間の大切さを、彼はよく知っている。休むときは、休む。

好きな過ごし方は旅だ。これまで二十か国以上を巡り、国内も数えきれないほど旅してきた。普段やらないことをすると、人はそこに集中する。日常から離れた非日常こそが、心を効果的にリセットしてくれる。働くことに夢中になれる人間が長く走り続けるための、これは彼なりの作法である。

決済という、暮らしの土台

SP.LINKSは、決済を担う企業であり、その根幹にあるのは人々の生活を支える重要なインフラである。

一方で同社が見据えるのは、「支払い」の先にある購買体験そのものだ。SP.LINKSは、「買う『ワクワク』を、もっと世の中へ。」というビジョンを掲げ、決済を通じて人々の購買体験をより楽しく、より豊かなものへと進化させることを目指している。

「金融は、止めてはいけないサービスです」と阿部は言う。キャッシュレス化が進むいま、決済はますます欠かせない存在となっている。

一方で、事業者にとっては、多様化する決済手段への対応や、セキュリティと安定性の確保が大きな課題だ。SP.LINKSは、安定した決済基盤と柔軟な対応力を提供することで、事業者が安心して決済を導入・運用できる環境を支える。その土台を陰で支えるのが、情報システム部門である。日々生まれる新しい技術や脅威に絶えずアンテナを張り、進化を止めないことが求められる。

会社の歩み自体が、ひとつの進化の物語でもある。SP.LINKSは三十年以上にわたり決済を担ってきた。2006年にソニーフィナンシャル グループの決済会社として設立され、ECサイトに決済インフラを提供。国内業界で唯一の自社決済ネットワークを強みに、クレジットカードやコード決済に加え、属性データを活用した独自の本人認証サービス「認証アシストサービス」など、高いセキュリティを実現してきた。インターネットで物を買うことがまだ珍しかった時代に、AIBOやプレイステーションといったソニー製品をオンラインで売るための決済基盤を築いた歴史も持つ。日本のEC黎明期を支えた一社である。

大きな転換点は、2023年のBlackstoneとの資本提携だった。グローバルな投資の知見と資金を得て、従来の延長線ではない「非連続な成長」へと舵を切る。阿部自身もBlackstoneを経てこの会社に加わり、経営改革の一翼を担った。変革の余地が残されていた組織は、働き方も、技術の在り方も、マインドセットも変わり、大きな変革を経験する。その成果として、EBITDAの達成に加え、他社からも注目される技術会社へと姿を変えつつある。

成功を、阿部は数字だけでは測らない。「人々が意識せずに使えるほど自然なサービスになったとき、それは大きな達成だと思います」。決済が暮らしの当たり前の一部として、誰にも意識されずに機能する。その信頼の土台であり続けることに、彼は深い意味を見いだしている。そしてその先には、単に取引を成立させるだけでなく、購買体験そのものをより楽しく、より安全に支えるインフラへと進化する未来を描いている。

進化を止めた会社は、いずれ消える

これから十年、テクノロジーのリーダーシップはどう変わるのか。阿部の答えは、ある意味で逆説的だ。「本質は変わりません」。リーダーは常に進化し、学び、変化の先を行かなければならない。その責任は、技術がどれだけ速く進もうと変わらない。

変わるのは、革新の速度と規模のほうだ。次々に現れる技術を見極め、一時の流行と本物の革新を見分け、価値あるものをいかに自社へ展開するか。それは永遠の課題であり続ける。とりわけ金融と決済の領域では、安定と信頼、安全が欠かせない。速さだけで新技術に飛びつくわけにはいかない。人々が日々頼りにする基盤を、壊すのではなく強くする形で、革新と信頼性を両立させなければならない。「進み続け、適正に変わり続ける。それを怠った企業は、いずれ淘汰されるだけです」

では、阿部が最後に残したいものは何か。技術でも、サービスでもない、と彼は言う。「私が残したいのは、技術やサービスそのものではありません。ともに成長し続けるチームと、その姿勢です」。すでに成し遂げたこともある。それでも彼は立ち止まらない。常に満足するな、慢心するな。その言葉を胸に、より多くの人へ価値を届けるために、阿部将人は今日も進み続ける。一人でではなく、仲間とともに。新聞配達であの一台を買った少年が見つけた、つくる喜びを、いまも手放さないまま。

RELATED ARTICLES
- Advertisement -

Most Popular